青春の味1

 誰にも、忘れられない〝味〟がある。ブリヤ・サバランは「君の好きな食べ物を云ってみたまえ。君がどんな人か当ててみせよう」と美味礼賛のなかで、述べている。

 きょうは、実に個人的な青春の味のエピソードをひとつ。

 学生時代のことだから、いまから50年近く前の話になる。上京して初めて部屋を借りたのが、渋谷の神宮前だった。

 いまでは、瀟洒なビルが立ち並ぶとてつもなく洗練された一等地だが、当時、私の借りていた部屋は古ぼけたトタン屋根のアパート。2階建ての1階の部屋なのに、雨が降ると雨漏りがするという何とも奇妙な廃屋のような建物だった。

 1日中、陽が差さない、電灯なしでは生活できない暗い一室。家賃は、1万円前後だったと記憶している。もちろん、風呂なし。共同炊事場と共同トイレ。電化製品といえば、トースターと電気ポット湯沸かし機だけ。冷暖房は夢のまた夢。電話、テレビ、冷蔵庫、洗濯機といった洒落たものを備えている学生は周囲にはほとんどいなかった。そんな学生生活が当たり前の昭和46年頃のことである。

 その頃、渋谷の街はターミナル駅ながら、まだまだ落ち着きのある昭和の香りが残る街だった。NHKに続く公園通りは、入り口にジャンジャンというライブハウスがあるのみで、店らしき店もなく、もちろん、パルコなど影も形もなく、スペイン通りは存在さえしなかった。

 寂れた坂道を上り詰めた先に「時計台」という1軒の洒落た喫茶店があるだけで田舎に住む若者達にとって、この店でコーヒーを飲むのが憧れであり、夢だった。

 そんな昔、渋谷センター街の奥まった一角に、お上りさん学生のお気に入りの「サバラン」という一軒の洋食屋があった。この店に来たのは、大学受験を終えて、合否結果を待っていた時で、たまたま友人と入ったのが最初だ。その時、注文したチキンカツの美味しさは、生涯忘れ得ぬ強烈な味として深く脳裏に刻み込まれている。続

 



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