グルメじゃなかった

 歳をとったせいだろうか。この頃、美味しいものを食べに出かける機会が少なくなった。若いころから、とりあえず、世間で最高と言われているものを1度だけでいいから、食べたいと躍起になっていた。

 薄給のほとんどを食事に費やし、30歳の頃は、コートも持っていなかった。雪が降る寒い日でも、スーツ1枚で過ごした。そのスーツも裏地が破れ、ぼろが垂れ下がっていたほどだ。車も持たなかったし、旅行や、お洒落にも無頓着。物欲よりも食欲にただただ執着した。

 そんな欲求が、強くなったのは、グルメ評論家の山本益博氏が1982年に著した「東京味のグランプリ200」という本を読んでからだったろうか。それまでのグルメガイドとは一線を画し、辛口批評が衝撃的だった。

 今となっては、汗顔の至りだが、その本の影響をモロに受け、身のほど知らずにも、名店と呼ばれる店に何度か足を運んだものだ。時には、パリの三ツ星レストランに出かけたり、ある時は、銀座の超高級寿司店のカウンターに震えながら坐ったこともある。

 場違いな雰囲気の中で、緊張しながらの食事、ほとんど味もわからないまま店を後にする経験ばかりだったような気がする。

 今でも、無駄な出費だったと後悔はしないが、歳を重ねて思うのは、人は、食事をする時、食べ物そのものよりも、食事を取り巻く時間とか、空間を味わっているのだろうと思う。どんなに美味しい食べ物でも嫌な相手や、体調が悪いときには、その美味しさを感じない。

 人は、食べ物そのものよりも、一緒に食卓を囲む相手との交流や、雰囲気を味わっているのだろう。料理の味は、自分の心境によって変わってくるものではなかろうか。この歳になって、初めて、私は、本当のグルメではなかったのだと自覚する今日この頃である。





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